5時から作家塾

第5章  本屋の愛すべきお客様たち

3.嗚呼、教えてクン

◆求人誌はキチンと買いましょう

 それはある日曜日の出来事でありました。私がカウンターに居りますと、そこへ一本の電話が掛かってきまして。
 電話の主は声からして20代位の女性でしょうか。
「あの〜ちょっと教えていただきたいことがあるんですけど……」と礼儀正しく彼女は切り出しましたが、その後に続く問い合わせの内容の凄まじさに、私は呆れて開いた口が塞がらないっつーのを通り越し、ビックリたまげて腰を抜かしそうになってしまいました(←少々誇張アリ)。

 彼女は一体何をのたもうたのかと申しますと、

「あの〜昨日そちらで求人誌"立ち読み"したんですけど、私その本の○○ページ辺りに載ってた会社の面接受けようと思っているんですよ。
 でー、お願いなんですけど〜。その本の○○ページ開いて電話番号教えてもらえませんか〜?」

 ……、受話器を握る私の手はワナワナと震えておりました。「立ち読みしたんですけど」という自己申告をはじめとしてツッコミどころ満載。
 私の中で湧き上がるさまざまな感情をなんとか押し殺し、

「恐れ入りますがそのようなお問い合わせには応じることが出来ないんですよ〜」
 と、下手下手に、丁重にお断りしました。
 しかし、しかしながら彼女は、
「え〜っ、ダメなんですか? 何とかなりませんか?」などとしつこく食い下がります。
 私は断固として、頑なにこのような理不尽な要求を却下いたしました。そして彼女はほぼ渋々という感じで諦めたのですが、就職面接という人生の一大事に臨もうというお方が、こともあろうに書店からタダで"情報だけ"いただいちゃおう、というこの図々しさ・非常識さ……。呆れて物も言えません。その後彼女はその会社の面接を受けたのかどうかは知りませんが、こんなお方を採用する会社なんぞあるんでしょうか??
 つうか求人誌はせいぜい100円程度、履歴書とセットで買ってもワンコイン500円でお釣りが来ます。お願いだから買っとくれ。図書券で買ってもいいから。おつり400円あげるから。

 その日一日私はあまりの理不尽さにモヤモヤとしたものを抱えながら仕事をしたのでございました。


◆当方はサポセンではございません

 本というのは世の中のすべてのジャンルを網羅していると言っても過言ではありません。ゆりかごから墓場まで。(これは違うか。)
「世の中のすべて」に本という商品を通じて関わっているがゆえか、「書店員はなんでも知っている」と、トンデモナイ勘違いをされるお方がたまに現れます。

 中でも一番多いのはコンピュータ書でしょうか。例年、10月過ぎからはどこの書店でも平台にドーンと積まれるモノがあります。そう、「年賀状素材集」です。
 ここ数年パソコンで年賀状を作る家庭が増えているためか、出版点数も年々増えておりまして、もう平台が足りません。この時期はこれら素材集の洪水となっております。しかも大体にして装丁が競ったように派手派手なもんですから、これはもう「さあ今年から」というパソコン年賀状初心者は確実に溺れてしまいます。
 で、私ども書店員に助け舟を求められるワケですが、まずは対応機種についての問い合わせから始まります。ここで、たまーに自分の使っている機種がWINなのかMACなのかすらワカラン、というお手上げな方もいらっしゃったりもしますが。

 まあ別に「これはウチのパソコンでも使えますか? 」程度の問い合わせなら全然構いません。私の仕事の範疇でございます。
 しかし、しかしです。この洪水の中から一点一点を吟味し、
「どのイラストにしたら良いんだろう? 」
 などと私に訊いてくるのはやめてくだされお兄さん。このお方は延々30分も私を傍らで付き合わせ、悩んでおられました。貴方の好みの問題だから自分で決めとくれ、という感じですが。つうか刷り込む絵柄を決めるのは家帰ってからやっとくれ。

 さて、この優柔不断なパソコン初心者お兄さん。やっと決まったと思いきや、今度はこんなことを訊いてまいりました。

「ネットでダウンロードしたMP3ファイルをCD−Rに焼くにはどうすればいいの??」

 ……、あのーぉ、当方本屋でございます。サポセンではありませぬ。


◆ゲームは自分で解きましょう

 立ち読みと称して、現物の中身を確認して選ぶことが出来るのが本というものの特徴ですが、中にはホンの少しでも内容を知られてしまうと、途端に商品価値がグーッと下がってしまうものもございます。
 それは、「ゲーム攻略本」の類でございます。
 何せ、攻略本という名の通り、ゲームを解く手助けをすることだけが存在意義。これを立ち読みされてしまいますともう書店は商売上がったり。
 書店も立ち読み防止策としてシュリンク掛けたり、カウンター前で監視付き陳列にしたりと、涙ぐましい努力を続けております。

 そんなある日、某ゲームマニアなお客様から電話が。
「あの〜、ワイルドアームズってゲームの攻略本の○○ページ辺りに、●○△★※ってアイテム(カルトすぎて解読不能)載っていませんか?」
 ……脱力・虚脱。頼む。攻略本は買ってくだされ。ゲームは自力で解いてくだされ。

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