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第2章 本屋のデキゴトいろいろ 1.ほ、本が来ない ◆灯台下暗し 私の店には伝説と化している「真保裕一事件」というのがございます。 2度も間違えられちゃあ、お客様もブチ切れます。そりゃあごもっともです。烈火の如く怒り心頭に達したお客様には、再度取次・出版社に手配するのはあまりにも時間が掛かり過ぎるので申し訳がないのでございます。 まあ、現金で買えば利益ゼロですが、店にある販売用図書券を使えば5%程度の利益は出ます――ってその書店に行く交通費でチャラですが。 そんなこんなで半日以上にも及ぶ悪戦苦闘のローラー作戦の末、私の店からはるか200キロほど離れたD書房という書店様にその本があることが判明いたしまして。私はその書店様に神を見る思いなのでございました。 トホホ。まさに「灯台下暗し」というコトバがこれほどまでにピッタリと当てはまるシチュエーションが他にございましょうか。私はそれまでの半日以上にも及ぶローラー作戦が脳裏に浮かび、卒倒しそうに……。繰り返しますが、まだ書店IT化が進んでいない時代でございましたので、前もって何が入ってくるかなぞ全く知る由もない、開けてからのオタノシミ状態であったのでございます(言い訳)。 というワケで、未だに真保裕一さん・『盗聴』は私の中で「トラウマ」となっております。 ◆小指の危機 それはある年の元旦のことでございました。私は新年早々元旦から仕事だったのですが、私がレジをしておりますとそこに一本の電話が掛かってまいりました。いわゆる「電話初め」ってやつで(違う違う)。声の感じからしてドスの効いた、その筋のお方と思しきお客様からのようでございます。 「あのよ〜、俺が予約していたマドンナの写真集入っているのか!?」 無い……。無いのですよどこにも。このお方のお取り置き分写真集が……。つうか、予約を受けた形跡すらありゃしません。いや、ウチの店側の初歩的ミスでございました。よりによって一番厄介なお客様の予約を漏らしてしまったのです。 さあどうする。一生一番の試練・修羅場でございます。って、私は一体全体何故新年早々元旦にドエライクレームを受けているのでしょう。それはさておき、こんな事情を説明しても、お客様が納得してくれよう筈もなく、お客様の怒りは電話口にて炸裂、機関銃の如くに罵詈怒号が飛んでまいります。元旦の書店は大層忙しく、私がクレーム対応しているその目の前にはレジ待ちのお客様の長蛇の列・列・列……。しかしながら私はその列を完全放置、それどころではございません。罵詈怒号を受け止めるのが精一杯。 そして、私の退路を完全に遮断するかのごとく、彼はこうダメ押しされました。 あぁもうだめだ〜と、頭を抱え、いよいよもって他のお客様に頭下げて買い戻さねばいけないか、とふと顔を上げて見ますと、あれま、そこには「キャンセル」と書かれたマドンナ写真集が! ついに神様ご降臨。つうか灯台下暗し。そんなワケで私は救われたのでございます。 私のトラウマその2でございます。 【教訓】 注文事故はかなりの高確率で危険度の高いお客様のときに発生する。 |
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